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菜園生活風来 西田栄喜さん

登録日:2023年10月5日


したいこと、能美市だったら叶うかも

菜園生活 風来
西田 栄喜さん

 

「命の価値観」を広めていきたい。

 畑の広さは日本の農家の平均のおよそ10分の1。“源さん”こと西田栄喜さんは都市圏でのサラリーマン生活の後、能美市にUターンし、10アールほどの農地で農薬を使わない野菜栽培に取り組み、生活者に直接送るかたわら、キムチやピクルスなど、育てた野菜の加工・販売も行っています。「ハーパー・ビジネス・オンライン」への寄稿、日本の食料自給率をテーマにした週刊ダイヤモンドオンラインや、NHKクローズアップ現代の「コロナ後の豊かな暮らしとは?見直される“小さな農業”」の取材など、ご本人の取り組みも全国的に広がり続け、最近では環境に極力負荷をかけないための可能性の一つとして、コンポストの試験的導入にも取り組まれています。
 「お客さまを幸せにするためには、自分が幸せにならないとできるわけがない。」という信念は、「売り上げ(目標)の5%以下ではもちろん反省するんですけれども、5%以上だった場合は、そちらもまた反省します。『今年は働き過ぎたな』、『おかげで昼寝する時間が少なかったな』というふうに。」と語る姿勢にもあらわれています。自らがクオリティ・オブ・ライフを実践していくことが、野菜を育てる姿勢につながり、その野菜を食する生活者への幸せにつながる。そんな「命の価値観」に、西田さんは今日も向き合っています。
 

まず自分が幸せであること。

 「幸せになること」を目的にして、借金なし、補助金なし、農薬なし、肥料なし、ロスなし、大農地なし、高額機械なし、宣伝費なしを掲げ、ストレスのない農業を目指して起業しました。農家と「農」・「食」に興味のある方とのご縁を繋ぎ、ビニールハウスの中を裸足で畑の土を踏みしめる体験メニューや、視察の受け入れ、講演会の依頼で日本全国に出向いています。
 

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左:岡山県の美作市から視察(2018年)右:講演で会津若松へ(2019年)

 
 子どもの頃、九谷茶碗まつりのお手伝いをしたことがきっかけで、接客の楽しさを体験しました。もちろん、子どもですから九谷焼の知識なんてないのですが、子どもなりの呼び込みでもお客さまはきてくれるわけです。少しの受け応えで商品を買ってもらえた時の、高揚感みたいなものは今でも憶えています。それで、大学を出たあと、いろいろあってバーテンダーになったのですが、人生で大切なことはここで学んだ気がします。 接客業の基礎は、よくお客さまの「ため」とか言われますが、具体的に接客側から深掘りすると、それは「また来ていただくため」であったり、「カウンターでのお客さまとの距離感」であったり、「お客さまのためになること」イコール「自分たちのためになること」でもあるんです。
 当時、師匠から「サービス業の使命は、お客さまを幸せにすること」という教えを受けました。居心地の良いことがバーの本質。カクテルなどの技術ももちろん大切ですが、常連のお客さまも新規のお客さまも分け隔てなく接することができることが基本、ということです。しかし、簡単なことではありません。まず自分が幸せでないと、そういう接客が心からできないんです。
 
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静岡県三島市「アフターバー石垣」でのバーテンダー時代


日本で農をやるなら別の価値を出すしかない。

 日本では、「小さい農」が向いていると実感した出来事があります。就農するずっと前に1年間ワーキングホリデーでオーストラリアに行っていました。最後の1ヶ月間、オートバイでオーストラリア中を旅行したのですが、その時によく使っていたのが「ファームステイ」です。これは登録してあるファームで半日農作業を行うと、宿泊代や食事代がタダになり、中にはお小遣いまでくれるところがあって、そういったファームを転々としていました。どこのファームも見渡す限りの農地。地平線まで続いていました。肥料のやり方もヘリコプターやセスナを使い、ハーベスター(収穫機)も幅20メートルくらいある、見たこともない大きさの機械がそろっていました。日本の農業政策でも、農地の集約や大型化を進めていますが、まさに桁違いなんです。こういうのを目の当たりにした時に、いくら効率化しても価格競争では敵わないな、と実感しました。
 

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オーストラリアを旅していた頃の写真

 

 価格で勝負するのではなく、味や安全性で生活者に訴求する。量より質、そのためには大きさを求めないで、栽培や加工、販売を目の届く範囲でやろう。そこからしか付加価値を生み出せないと思ったのです。それと、起業当時に調べたのですが、「食産業の売り上げで一次産業は一割、加工する二次産業が三割で残りはサービス業」でした。ということは農作物(一次産業)を加工(二次産業)して直接販売(三次産業)すれば「小さい農」でもやっていけるのではないかと考えたのです。それで、まずキムチ用の白菜をつくり、近所でも評判の良かった母のキムチづくりと販売からスタートしました。
 

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無添加白菜キムチとピクルスなど、「菜園生活 風来」で販売している加工品

 

あなたの自分自給率は何パーセントですか?

 Facebookで情報発信していますが、大きな反応があったものの一つが「あなたの自分自給率は何パーセントですか?」という問いかけです。国自給率というと大きすぎて漠然としてしまいますが、 衣・食・住・医・エネルギーのうち、どれだけ自給できるか考えると自分事になります。そして次は「地域自給率」。それから、普段から関係性が深い知人に食を生産している人がいるかどうかという「関係自給率」です。自分ごとから範囲を広げていくほうが本質に行き着きやすいと考えています。
 

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左:農林水産省「令和3年度食料自給率について」より作成 右:農林水産省「令和3年度都道府県別食料自給率について」より作成
 

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「小さい農」にチャンスな時代。

 グローバル化が進むことで確かに安く、そして便利に食が手に入るようになりました。しかしそれは経済格差があるという前提、そして輸入できるという前提の中で存在するものでした。その前提を崩したのが新型コロナです。しかし、そういったことに早くから気づいていた人々が、ローカルに、そして小さい農業に目を向けるようになったのではないかと思います。世界の食料のうち8割以上(価格ベース)を生産しているのは「小さい農」なのです。そして、今はクラウドという形で経理などの事務仕事も外部委託できる時代ですし、クレジットや電子決済も加速していくので、以前は大変だった代金回収に時間をとられることも少なくなるでしょう。私が起農した20年前に比べても、より「小さく動ける農にチャンスな時代」になったといえます。
 

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2022年農業センサス報告書より。日本でも約80%が「小さい農」

 

 

コラム:食料自給率について

 日本の食料自給率は38%でここ数年横ばいですが、食料自給率自体、低いということを知っている方も多いと思います。一般的に「食料自給率」というと、「カロリーベース」のことになります。私のような野菜農家だと、穀物と比べてカロリーが低いので、あまり食料自給率に貢献していないことになります。そして、カロリーベースで食料自給率を算出するときには、畜産物のエサの自給率が按分される形になります。たとえば、たまご自体は95%とほぼ日本で産み落とされたものになるのですが、ニワトリのエサの自給率は10%と大半が輸入ものです。
 カロリーベースでの食料自給率換算では、95%×10%となり、日本のたまごの食料自給率は9.5%となります。また、食品廃棄も大きな問題とされていますが、その廃棄品のカロリーも分母として含まることになるので、さらに低くなってしまいます。
 そんなカロリーベースで食料自給率を算出している国は先進国では日本しかないということで、今、「生産額ベース」で算出すべきだとの声も上がってきています。
 生産額ベースとは、「国内食料生産金額÷国内食料消費金額」で算出したもので、2021(令和3)年度は63%となります。こういったことから、カロリーベースの食料自給率は、自給率を低く見せて危機感をあおっているだけだという声もあります。そういったところがないとは言えないかもしれませんが、私は安心してはいけないと思っています。
 当たり前のことかもしれませんが、カロリーベースで食料自給率が高い国は生産額ベースで見ても食料自給率が高く、生産額ベースで見ても日本の食料自給率は先進国の中では最下位であることは間違いありません。今の農業の大部分は、トラクターなど大型機械なくしては成り立ちません。そして、大型機械は燃料がなければ動くことすらできない。つまり、今の農業で真の食料自給率を問うなら、カロリーベースの畜産のエサのような考えをあてはめて、エネルギー自給率を按分していくのが正しい算出方法になるのではないかというふうに考えています。
 現在日本のエネルギー自給率は13.4%です(資源エネルギー庁『エネルギー白書2021』)。もし、カロリーベースでこの考えを導入すると……食料自給率38%×エネルギー自給率13.4%=5.09% つまり、「5.09%」というのが、日本の本当の食料自給率なのかもしれません。加えて言うなら、化学肥料の原材料も輸入ものが多いので、肥料を食物のエサという考え方をすると、もっと低くなるかもしれません。これはあくまでも極論ですし、突っ込みどころも多々あるのは十分承知のうえですが、日本の食がいろいろな側面で不安定ということは間違いないように思います。食の輸入がストップするのにエネルギーだけが輸入されるというのは考えにくいですから。とはいえ、近所のスーパー、コンビニにいけば、食べ物もあふれているので、なかなかそんなこと実感できませんよね。
 そこで「食料自給率」の本来の意味は、「自分がまかなっている食のパーセンテージ」。というふうに考えることで、食料自給率の話になったとき、私は、あなたの「自分自給率」は何%ですか?と聞くようにしています。普段食べている「食」のうち、どのくらい自分でまたは家族・親族でまかなえているか。それを問うのです。買い物をするということは、国でいうと輸入していることと同じです。「自分自給率」を考えると、食料自給率という言葉に少し実感が湧いてくるのではないでしょうか。
 

 

 


 

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