菜園生活風来　西田栄喜さん

 

農法の上に「個人」がいる

　この20年で変わったのが情報を簡単に手に入れやすくなったことです。農薬を使わない栽培といっても動物性堆肥を入れているか、在来品種なのか、自家採種なのかなど、消費者の方が詳しいくらいです。「風来」では栽培方法を冠にせず、座布団にしています。栽培方法で売ろうとしたらその中で選択されることになります。そうではなくその農法の上に個人がいる。私がHPやネット上で「源さん」と名乗っているのもそれが理由です。「源さん」が販売しているものだから安心できる。そう思ってもらえるようにやってきました。そのために情報を出していくことや、畑を開放して誰でも見学できるようにするなどオープンにしてきました。農薬を使わない栽培は環境問題やSDGsの観点からは重要な農法です。肥料など輸入資材の高騰はこれからも続くと思われます。その時に緑肥や地域資源を堆肥化したものを利用するなど農薬を使わない栽培の可能性は大きく広がっていくでしょう。
 

「菜園生活 風来」で収穫された野菜

 

「かかりつけの農家」という考え方

　日本は食料自給率がかなり低い国でもあります。しかし、街中は食であふれています。昨今は、インフレによる高騰も懸念されてはいますが、食や農の未来に対してどこまで真剣に考えているのかが不安になる時があります。しかし、個人で食の大切さに気づいている人はたくさんいます。人は食べ物でできているからです。命のもとである食を「高い」「安い」という観点を優先して見ているわけではない人たちです。これからは「かかりつけの医院」のように「かかりつけの農家」をもち、安心・安全な食料供給を確保していく人が増えていくようにも思います。
 

風来に直接購入にくるお客さんに笑顔で対応する“源さん”こと西田さん
 

風来のハウスにてヨガの講師の方と組んで畑ヨガ・リトリートを開催
 

左：風来の味噌作り教室　右：風来の夜の畑でのイベントの様子

サービス業の使命は人を幸せにすること。

　ある日、風来に一本の電話がかかってきました。長野のとあるキャンプ場に野菜を届けてほしいとのことでした。その方は、重度の化学物質過敏症で、神奈川の自宅に住めなくなり、ホテルにも住めないため、仮住まいとしてキャンプ場で生活をされているとのことでした。有機野菜であっても、反応が出るものもあり、のどが腫れてしまい、食べられないものもあると言います。そういった方に野菜をお送りするのは、正直プレッシャーもありましたが、後日、その方からメールと電話があり、涙ぐんだ声で「食べられました」と感謝されました。その言葉を聞いて、自分がこれまで取り組んできたことが報われた気がしました。と同時に、バーテンダー時代に師匠から教わった「サービス業の使命は人を幸せにすること」という言葉を思い出しました。命のもとを育てている農はまさに「究極のサービス業」だったんだと、誇りを持つことができたんです。
 

長野のキャンプ場から届いたメール
 

左：2016年頃　中央：2018年頃　右：2020年頃

 

ほかにないものが、能美市にはある。

　私は正直、能美市には何もないと思って外に出ていきました。でも、帰ってきて農家になって必要なものは何でもそろっていると思いました。
　私が小さい頃、母親が晴れた日によく白山に向かって手を合わせていました。それはなんでだろう。何でそんなことするんだろうなと思っていたのですが、農家になってからわかりました。白山のおかげで水が枯れることなく、台風や風が来ても白山が防いでくれる。そういった意味で白山“しらやまさん”として大切にしていたんだなと思って、農家をやって、私は能美市が大好きになりました。
 

近くの農道から直線でつながるように見える白山

 

　決して都市化されているわけではないですけども、ほかにないものが、能美市にはあるんじゃないかなというふうに改めて思っています。今、私は堆肥作りの勉強をしに、三重県の方に通ってますが、全国からたくさんの人がそちらの方に来ています。私自身、今やっているこの小さい農業を広めていきたいなと思っていますし、それにはこの能美市がすごくいい環境にあるんじゃないかなというふうに思っています。全国から能美市に、またこの風来に小さい農業を学びに人がたくさん来て、それが各地で、また小さい農業を広めていくことが、命の価値観を広めていくために一番いいのではないかなと思っています。
 

 

菜園生活 風来
https://www.fuurai.jp/

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