紙本著色天狗草紙(園城寺巻)
登録日:2019年4月1日
天狗草紙は鎌倉時代の代表的絵巻物である。「興福寺巻」の巻頭に全体解説として総序があり、当代の奈良・京都などの天台・真言両宗派の諸大寺の僧侶が、自分の寺の由緒を比類なきものと誇り、傲慢な振る舞いをしていた有様を、7種類の天狗にたとえて描かれたものと記している。
描かれた天狗は、興福寺・東大寺・延暦寺・園城寺・東寺・醍醐寺・金剛峯寺・三井寺を題材にしている。天狗草紙は、全7巻を完備していたものと思われ、現在7巻(内2巻は模本)残されており、宮竹町に残る絵巻物は、その1つの「園城寺巻」である。
本巻は、詞書1段、絵1段からなり、絵の筆者は明らかではないが、全体に大きな構図の非常に風刺性の強い絵巻物で、田楽の場面、人馬の列、そして数多くの僧侶など、人物本位の画面が続いている。特に園城寺に対しては、筆者がよほど憤慨していたものと思われ、3巻にわたって罵り、最後に園城寺の僧侶たちを烏天狗の姿に描いている。しかし、暢達な描線、鮮明な彩色のなかにも落ち着いた色調を残し、平安から鎌倉時代にかけての絵巻物特有の吹抜屋台の建物を画面一杯に描くという様式を用いた大和絵の特色を充分にあらわしている逸品である。
詞書は、他巻が白紙を料紙としているのに対して、この巻は上下に雲を重ねすきした打曇のある料紙に力強い書体で書かれ、鎌倉時代の特徴を十分にあらわした絵巻である。製作年代は、「興福寺巻」の詞書に「永仁四年」(1296年)の文字がみえていることから、この園城寺巻の製作もその頃と想像される。元は前田家に永らく伝世した絵巻物の名品である。
紙本着色。全長768.4cm、幅29.3cm